16世紀のヴェネツィア・ルネサンスを代表する画家ヴェロネーゼの展覧会がロンドン・ナショナル・ギャラリーで開催されている。ヴェロネーゼのフレスコ画装飾、祭壇画、肖像画などの収蔵品10点と、欧米から貸与された約50点の作品が展示されている。
石工の息子として1528年に生まれたパオロ・カリアーニは、後に誕生の地ヴェローナにちなんでヴェロネーゼで呼ばれるようになった。早くから優れた才能をあらわし、10代の後半にはヴェローナの貴族たちのために作品制作を行った。ヴェネツィア派の画家として知られているヴェロネーゼだが、生まれたのはヴェネツィアから西へ100キロほど離れたヴェローナであり、ヴェネツィアに移ったのは30歳を間近に控えた1555年ときであった。
《エマオの晩餐》(1555年頃、図1)で描かれているのは、ヴェネツィアのとある貴族一家がエマオの夕食に参加している場面である。画面中央に座るキリストは目を天に向け、左手に持つパンを祝福している。ヴェロネーゼは中央でなされている聖書中の出来事にことさら注目を集めることはしていない。右側にはキリストに無関心な一家がおり、手前には犬と戯れる可愛らしい子どもたちが描かれている。ヴェロネーゼは神聖なる神の世界を描いたというよりも、当時のヴェネツィアの日常生活の中にキリストを描いている。キリストと使徒らは古代風の衣装だが、彼ら以外の人々は同時代の衣装である。
ヴェロネーゼが制作した肖像画の中でも傑作を称賛されるのが《女性の肖像(ラ・ヴェッラ・ナーニ)》(1560-1565年頃、図2)である。モデルとなった人物は分かっていないが、その衣装からヴェネツィアの上流階級の女性で、左手に指輪をしていることから花嫁だと考えられている。彼女は上質な青のドレスに身を包み、ルビーやサファイアを配した指輪やブレスレット、真珠のネックレス、肩には金の装飾をつけている。アクセサリーは素早く軽い筆致で描かれており、その自由で大胆な描き方はまさしく天才である。
ヴェロネーゼの作品は格別に色彩が美しい。17世紀の批評家は彼の華麗な色彩を、金に最高級の真珠、ルビー、サファイア、そして最上級のダイヤモンドを混ぜていると評している。とくに《レヴィの饗宴》(1573年)などの祝祭画は、ヴェネツィアの華麗さと豊饒さをもっとも饒舌に表現している。
ヴェロネーゼ展は6月15日まで。
London WC2N 5DN
The United Kingdom
+44 (0)20 7747 2885
http://www.nationalgallery.org.uk/