トゥデイズアート2012

 


トゥデイズ・アートは、オランダのハーグ市で2005年から毎年秋の週末二日間にわたって行われているメディアアートフェスティバルである。市の中心にある二つの劇場、映画館、それに隣接する市役所の建物を会場にして、オーディオビジュアルやモダンダンスのパフォーマンス、コンサート、クラブ、インスタレーション、美術作品の展示が行われる。8回目の今年は 9月21日夜、ディレクターのオーロフ・ファン・ヴィンデン(Olof van Winden)のスピーチで幕をあけ、多彩なパフォーマンスが始まった。今年は新たな試みのひとつとして アムステルダムを本拠に20年に渡り美術展企画などを展開しているNTVヨーロッパの協力により、和田永、黒川良一といった日本人の新進のアーティストが招聘され、彼らのパフォーマンスが大々的に紹介された。

4つのメイン会場の中心には、市内から集められた家具などの廃棄物を張り合わせて作られた巨大なモニュメントともいうべき、ラウムラボベルリン(Raumlaborberlin)のボルテックス(Vortex/渦の意) が創作された。その内部のスペースにはバーとダンスフロアが設けられ、まるで ブラックホールのようにVortexが集まった人々を包み込み、飲み込んでゆくようだった。これは現代の浪費社会の有り様を表現しているという。この場所は屋外に設置されているため、チケットをもたない一般市民もフェスティバルに参加できるスポットとなっていた。

syn_ by Ryoichi Kurokawa

21日夜、メイン会場のひとつであるルーセント・ダンスシアターの大ホールで行われた黒川良一の「syn_」は、無数の細い線が織りなす詳細なデジタルアニメーションとサウンドの組み合わせで構成されていた。黒川を挟み舞台の中心から二つに分けられ張り出された巨大なスクリーンに映し出される映像が、音源と完璧に同化されている。抽象的なビジュアルと音楽、さらに 時折スクリーンの形状も呼応させ、三次元的なパフォーマンスが会場全体を包み込んだ。
白と黒のコントラストが印象的なのは、和田永による「ブラウンチューブジャズバンド」にも共通している。こちらは映像に「変換」された音源を12台のブラウン管テレビ上に映し出し、和田がパーカッションのように叩いたり、触れたりすることで、音楽を作り出すパフォーマンスである。

Braun Tube Jazz Band by Ei Wada

両日のパフォーマンスの後、2日目には、ブラウンチューブジャズバンドに続き、佐藤公俊、難波卓巳、吉田悠、吉田匡とともに、オープンリール・アンサンブルのパフォーマンスが行われ、オープンリール式テープレコーダーの特性を生かしながら、ライブ中に録音した音源をディスクジョッキーのように操るパフォーマンスを披露して、満員の会場を湧かせた。[/caption]

Open Reel Ensemble

ルーセント・ダンスシアターの真横にある、高い吹き抜けと真っ白な壁が特徴的なハーグ市庁舎では、500平方メートルの広々とした中央のスペースを生かし、売れ残ったり、廃棄された約65,000枚のCDが手作業でつなぎ合わされ、砂丘のような風景を作り出す「浪費風景(WASTE LANDSCAPE)」(エリス・モリン+クレメンス・エリアード Elise Morin + ClÉMENCE ELIARD)が展示され、その中央ではイナーアクト(Inneract)によるハープ、エレクトロニクス、ビジュアルを用いたパフォーマンスが行われた。ミニマル・ミュージックで著名なオランダ人作曲家シメオン・テン・ホルトの「canto ostinato」を軸として、45分から時には数時間に及ぶこの作品の即興演奏を、観客は会場上階の渡り廊下や、上下するエレベータの中から眺めて楽しんでいた。

メディアアートには不可欠な電気。これを供給する建物が今年、トゥデイズ・アートの一部として利用されたことは興味深い。中心の会場から少し離れた元発電所の建物では、巨大な室内に、ナム・ジュン・パイクの作品から名前を借りたメディアアートのグループ展「グローバルグ・ルーブ」と、トルコのメディアアート展「コモンズ・テンス(Commons Tense)」が開催された。「グローバルグ・ルーブ」では、 ディック・ラーイメイカーズ (Dick Raaijmakers:電子音楽の創始者、名付け親と言われ、ハーグ市の若手養成にも大きな影響をもたらした)の作品「Ideophone 1: 36」の、スピーカーの振動で跳ね上がる金属玉の音が、巨大な発電所内に小気味良く響く中、名匠とも言うべき著名な作家と次世代を担う若手作家の作品が肩を並べていた。

「未知の探究と熱望」がテーマのトゥディズ・アート2012。時代が変遷期に差し掛かっている今こそ、アーティスト達がそれぞれのルーツに立ち戻り、古き良き物を大切にしながら斬新で先鋭的な作品を創作しようという姿勢が多彩な作品にちりばめられていた。二日間の催しは、無数のベルを使ったベル・ラボラトリー+パンサ・ドゥ・プリンス (The Bell Laboratory + Pantha Du Prince)による「光の要素(Elements of light)」にその成果とメッセージが集約され、盛大なスタンディングオベーションで幕を閉じた。

トゥデイズ・アートフェスティバル TODAYSART 2012
21+22 Sept the Hague

ビデオダイジェスト

http://todaysart.org/2012/
http://todaysart.org/2012/news-item/ntve-todaysart-japanese-program/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA