オランダのハーグにある市立美術館で、印象派の画家カイユボットの展覧会が開催されている。ギュスターヴ・カイユボット(1848-1894)は、印象派展に5回にわたって参加した、印象派の代表的な画家である。
裕福な家庭に育ったカイユボットは、まだ世間に認められていない印象派の作品を、購入するなどして経済面で支えた人物でもある。カイユボットの死後、遺言によって所有していた作品はフランス国家に寄贈された。現在、パリのオルセー美術館で印象派の作品を一堂に見られるのは、彼の功績によるところが大きい。
1874年、カイユボットは第1回印象派展を訪れた。そこにはモネの《印象-日の出》など光にあふれた新しい絵画が展示され、彼は魅了されてしまう。《床の鉋がけ》(図1)は第一回印象派展を訪れた後に描いた作品である。窓から差し込む光を背に浴びながら床を鉋で削る3人の労働者が描かれている。この絵を賞賛したドガの勧めで第二回印象派展に出品し、高い評判を得た。
カイユボットはその後、当時暮らしていたパリのアパルトマンからみた風景やその近辺の通りの情景など、都市風景を主題として描くようになった。19世紀半ば以降、セーヌ県知事オスマンによるパリ改造により、今日見るようなパリの大通りや公園、鉄道駅が整備された。《ヨーロッパ橋》(図2)では鉄骨でできた橋の奥に、サン・ラザール駅が見える。カイユボットは新しく変容する近代都市景観を観察し、同時代の変化を捉えようとした。
同じヨーロッパ橋を別の角度から描いた《ヨーロッパ橋、習作》(図3)の構図は大変興味深い。この作品では前景の幅いっぱいの道が、シルクハットをかぶる男の頭の後ろで急角度で収束している。この特徴的な遠近法は、カイユボットが作品制作の際に写真を利用していたことによる。
カーク・ヴァネドーとピーター・ガラシによる研究で、カイユボットは構図を決める段階で、しばしば広角レンズをつけたカメラで撮影した写真を用いていたことが明らかにされている。広角レンズは広い範囲を撮影することができる反面、広い範囲を圧縮してしまうために遠近感が強調される。この効果をカイユボットは絵画に取り入れたのだ。
この展覧会では、当時のパリの都市風景を撮影したステレオ写真のための一室も用意されている。ステレオ写真とは同じ写真を専用の眼鏡でのぞくと画面が立体に見える仕組みの写真である。のぞくとあたかも自分が19世紀のパリへタイムスリップしたかのような錯覚におちいる。これらの写真とカイユボットの作品を見比べることで、写真が絵画にもたらした革命の一端を知ることもできるだろう。
ギュスターヴ・カイユボット展は5月20日まで開催(月曜日休館)