ゴッホと仲間たち展

Fig.1 Vincent van Gogh, Self-portrait, April – June 1887, oil on cardboard, Kröller-Müller Museum, Otterlo

ゴッホの故郷オランダにあるクレラー・ミュラー美術館では、コレクションの中からゴッホ作品約50点と、コローやミレーなどの先駆者や同時代の画家、そしてゴッホに影響を受けた画家たちの作品を合わせて総数108点を展示する企画展「ゴッホと仲間たち」を開催している。

ゴッホ(fig.1)は若い頃から多くの画家に尊敬の念を抱いていた。彼が勤めていたハーグにある美術商「グーピル商会」で多くの作品を扱い、各地の美術館を訪ね、気に入った作品や画集を購入している。画家を志した時にはオランダのハーグを中心に活躍する画家集団であるハーグ派の画家であったアントン・モーブに教えを乞い、パリに渡ってからはゴーガンや、ベルナールなどの若い画家たちと交わりあいながら画家としての腕を磨いた。

画家への第一歩を踏み出したとき、ゴッホはミレーが描いた農民の姿に惹きつけられて《種まく人》などの作品を模写する。また、農民の頭部を描いた習作を重ね、それらを組み合わせて仕事を終えた後の食事風景を描いた初期の代表作《馬鈴薯を食べる人々》を制作した。静物画においてもジャガイモや玉ねぎなどの野菜や労働で履きつぶしたブーツなど、農民の生活に根差した物を好んで描いていた。これらの静物画は直接的には農民の姿を描いていないが、彼らの姿を別の角度からとらえた肖像画といえるだろう。

また、そのほかの静物画のなかに、当時のゴッホの心情を率直に表しており、一種の自画像といえるものがある。たとえば、ゴッホが自ら耳を切り落とした翌年、精神病院から退院してすぐに描いた《玉ねぎの皿のある静物》(1889年)(fig.2)だ。ここには退院直後の自らの体調を気遣うように家庭の医学書と、愛煙家であったゴッホのパイプとタバコ、そして日々の愉しみである酒のボトルとコーヒーが置かれている。そして、手前には送り主である弟テオの住所と1888年の年末に使用されていた消印が押された手紙が見える。残念ながらこの手紙は現在残っていない。一般的には、1888年12月23日にゴッホが耳を切り落としたのはゴーガンとの関係が決裂したからだとされているが、この失われてしまった手紙で弟テオの婚約を知ったこともその引き金になったのではないかと主張する研究者もいる。精神的にも経済的にも依存していたテオが結婚するとなると、今まで通りの支援が望めないので心を病んだというのだ。しかし、退院後に描いたこの作品には、手紙とともに緑の芽を伸ばす玉ねぎが描かれている。新芽からは湧き上がる生命力が感じられ、この手紙を受け取った時は自分の人生に絶望したゴッホが立ち直り、自らの新しい人生を肯定的にとらえている様子が伝わってくる。

Vincent van Gogh, Still Life with a Plate of Onions,
1889, oil on canvas, Kröller-Müller Museum, Otterlo

ゴッホと仲間たち展は9月27日まで(月曜日休館日)

クレラー・ミュラー美術館 Kröller-Müller Museum
Houtkampweg 6
6731 AW Otterlo
The Netherlands
www.krollermuller.nl/visit

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