オランダを代表するかわいいウサギの女の子のキャラクター、ミッフィー(うさこちゃん)。60年前の1955年6月21日に絵本「ちいさなうさこちゃん」が出版されて以来、これまで世界中の多くの子どもたちに親しまれてきた。このミッフィーを世に送り出したのはオランダ人のディック・ブルーナだ。現在、ミッフィーの誕生60周年を記念して「ディック・ブルーナ アーティスト」展がアムステルダム国立美術館で開催されている。
ブルーナは、幼い息子が夜寝る前に、かつて息子と一緒に見たウサギの話を聞かせていた。このウサギが、のちのミッフィーである。ワンピースを着たウサギの姿が頭に浮かんだのは、マティスの作品を見たときであったと、後年、ブルーナは語っている。
ブルーナがマティスの作品に初めて触れたのは、家業である出版社を継ぐための研修としてパリを訪れた時であった。仕事の合間を縫って美術館や画廊に足しげく通い、そこに並んだマティスやレジェ、ピカソのなどの作品を驚きの目で見つめた。それまでゴッホやレンブラントなどの画集に親しんでいたブルーナは、彼らが用いる抽象的でシンプルな形と単一の色彩で塗られた色面、またそれらを形作る力強い線に衝撃を受けたのである。
一時期、ブルーナはマティスの滑らかで流れるような線を自分のものにしようと努力を重ねていた。「あのころのデッサンを見ると、マティスを模倣することなく、私が彼のようになろうとしていたことが分かるだろう」と、ブルーナは振り返る。彼らの作品の間には丸みを帯びた滑らかな描線のような明らかな類似点が見られるが、もちろん相違点もある。マティスはさらさらとよどみなく筆を走らせ、一本の線のなかでも太さや濃淡が変化するが、ブルーナは確実に輪郭を捉えようと慎重に筆を進めている。
マティスに線を倣ったブルーナであるが、その他にもピカソやブラック、レジェなどの明快な線描や最小限の色彩での表現に創作意欲を掻き立てられた。また、ミッフィーの絵本を特徴づける正方形のフォルムは、オランダの芸術運動デ・スティルに参加していたヘリット・リートフェルトの影響である。会場では、これらの画家たちの作品とブルーナの作品を並べて展示し、絵本作家ではなく、画家としてディック・ブルーナの画業を捉えなおそうとしている。
「ディック・ブルーナ アーティスト」展は11月15日まで。