「ムンクとゴッホ」展

fig.1 Edvard Munch, Self-Portrait with Palette, 1926. Private collection

ノルウェーの画家エドワルド・ムンク(1863-1944、fig.1)とオランダの画家フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890、fig.2)の二人は、その生涯に出会うことはなかった。しかし、同時期に画家として歩みをはじめ、同時期にパリに滞在して新しい芸術を貪欲に吸収し、非常に類似したテーマに取り組んだ。画家として似たような道のりを辿ったにも関わらず、それぞれが生み出した絵画は大きく異なる。オランダのアムステルダムにあるゴッホ美術館で開催中の「ムンクとゴッホ」展は、ゴッホ美術館とオスロのムンク美術館との長年にわたる共同研究をもとにし、彼らの類似点と相違点を検証した展覧会である。
ゴッホはムンクより10年早く生まれたが、彼らの画家としての経歴はほとんど同時期の1880年頃に始まった。彼らはまず母国で自然主義的な画家の影響を受けて伝統的な画題に取り組み、抑制された色遣いをしていた。しかしすぐに、伝統的な描き方では飽き足らなくなり、芸術の都パリへと赴く。ムンクは1885年、ゴッホはその翌年の1886年のことであった。

fig.2 Vincent van Gogh, Self-Portrait as a Painter, 1887-1888. Van Gogh Museum, Amsterdam. (Vincent van Gogh Foundation)

同時期にパリに滞在していた二人が出会うことはなかった。しかし、二人ともモネの光と色彩表現を尊敬し、マネの肖像画やロートレックの人物画にインスピレーションを受け、ピサロの点描技法を経験し、カイユボットの画面構成を取り入れ、新しいアイディアをスポンジのように吸収し、自らの芸術を確立していった。さらに二人を深く結び付ける類似点は、人間の存在の本質と、その意味を追求する姿勢であった。繰り返され続ける生や死、愛と希望の喪失による恐怖と苦痛など、答えの出ない本質的で普遍的な問題に熱心に取り組んだ。奇しくも二人とも、恋愛のもつれにより、自らの身体を傷つけている。ゴッホはこれらのテーマを《子守女(オーギュスティーヌ・ルーラン)》《荒れ模様の空の麦畑》《サン・ポール療養院の庭》で、ムンクは《星明りの夜》《叫び》《病気の子ども》《マドンナ》で取り組んだ。

このように、同じ絵画技術を習得し、同様のテーマを扱っていたのにも関わらず、二人が描いた作品は大きく異なっている。それぞれの代表作である、ゴッホの《ひまわり》、ムンクの《叫び》を比べると理解できるだろう。ゴッホは現実世界を、練習に練習を重ねたうえで描き、ムンクは見ているものではなく、見たものを現実世界に縛られることなく自由に描いている。ここに二人の画家の個性の在り方が浮き彫りにされていると考えられる。

「ムンクとゴッホ」展は、1月17日まで開催。

ゴッホ美術館 Van Gogh Museum
Museumplein 6
1071 DJ Amsterdam
The Netherlands
+31 20 570 5200
http://www.vangoghmuseum.nl

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