ヤン・ファン・アイクが活躍していた当時、貿易中心地であるパリやアムステルダム、ケルンなどでは商取引だけでなく、芸術作品も国境を越えて伝播し、同時に芸術家たちもヨーロッパを舞台に活躍していた。そのような中、ヤンは多くの画家や作品から学びながら自らの腕を磨き、卓越した表現力を手にした。彼の描いた作品は高い評価を獲得し、多くの画家たちに影響を与えることとなった。
本展覧会には貴重なヤン・ファン・アイクの作品が複数出品されている。『トリノ=ミラノ時祷書』には、現存するヤンの最初期の作品が収められている。緻密な描写は、画家の将来の作品を予感させる。《受胎告知》は、豪華な色彩と精緻な筆で大天使ガブリエルが聖母マリアに神の子を宿したことを告げる場面が描かれている。ガブリエルの虹色の翼と豪奢なローブ、教会内部の複雑な構造や床の装飾など、圧倒的な描写力で質感豊かに表現されている。
ボイマンス・ファン・ベーニンヘン美術館が所蔵する《石棺の傍らの3人のマリア》は、長い間、ヤン・ファン・アイクの兄フーベルトの作品と考えられてきたが、ヤンの作品だとする主張もあり、いまだ研究者の間で意見が分かれている。フーベルトは、ヤンと共にベルギーのゲントにある聖バーフ大聖堂の傑作《ゲントの祭壇画》の中央パネル《神秘の仔羊》を手がけた。1823年の祭壇画の修復により発見された額縁の銘文には、フーベルトは「古今並ぶことなき画家」として称讃され、ヤンは「これに次ぐ画家」と記されている。しかし、現在、フーベルトに関する確実な作品や記録は何ひとつ存在しない。《石棺の傍らの3人のマリア》は謎の画家フーベルトを知るために残された重要な手がかりのひとつである。
《石棺の傍らの3人のマリア》は展覧会に合わせて修復され、あざやかな色彩と繊細な表現がより明らかになった。その過程はホームページで公開されている。また、《ゲントの祭壇画》も2012年10月2日から修復作業が始まった。修復は5年に及ぶものだが、19枚あるパネルのうち数枚ずつ修復されるので、修復中のパネル以外はこれまで通り聖バーフ大聖堂で見ることができる。
「ファン・アイクへの道」展は、2013年2月10日まで開催。(月曜、12月25日、1月1日休館)