リヒテンスタイン回顧展

Roy Lichtenstein, Whaam!,1963, Tate. © Estate of Roy Lichtenstein/DACS 2012

アメリカのポップ・アートの中心人物、ロイ・リキテンスタインの回顧展が、ロンドンのテート・モダンで2月21日から開催されている。1997年に73歳で亡くなって以降、初めての大規模な回顧展となる。初期から晩年までの作品125点を集め、美術と大衆文化の境界を揺るがしたリキテンスタインの画業を振り返ることができる。

リキテンスタインは漫画の一コマを拡大したような表現スタイルで知られている。彼が活躍した1960年代は、アンディ・ウォーホルらが大衆文化や身の回りの都会風景、あるいはマスメディアや広告の世界に取材して作品を制作しはじめた時代である。

Roy Lichtenstein, Oh, Jeff…I Love You, Too…But…, 1964, Collection Simonyi © Estate of Roy Lichtenstein/DACS 2012

1962年、リキテンスタインはニューヨークのレオ・キャステリ画廊で、人々の芸術に対する高尚なイメージを覆す衝撃的な作品を発表した。それは、《見て、ミッキー》という作品である。ディズニーの有名なキャラクター、ミッキー・マウスとドナルド・ダックが絵画作品として描かれている。強調された線、単純な色彩など漫画が持つ特徴をそのままに、このアニメキャラクターたちを巨大なカンバスに油彩で描き出した。ここで彼は、世の中に大量に出回る大衆的な印刷物である絵本の挿絵を、芸術作品へと変換してみせたのである。

彼の作品は、モティーフと描き方のせいで、しばしば単に印刷物を拡大しただけのものだと誤解される。だが、本当にそうだろうか。
たとえば、彼の最も重要な作品のひとつである《ワーム!》を見てみよう。この作品は1962年に出版されたコミック『戦争の全てのアメリカ人』収録の「スター・ジョッキー」という戦闘機パイロットが主役の作品の1コマである。

モティーフとなったコミックのシーンと比べると、背景を排除され、線描と色彩も整理されて、よりインパクトのある構図に変えられている。細部を見ると、印刷物特有の小さな点(ドット)が見えるが、さらに注意深く観察すると、これら正確に配置されたドットは機械印刷ではなく、すべて手作業で描かれている。リヒテンスタインはモティーフを大衆的な印刷物から借用しながらも、変更を加え、手作業で描くことによって、ただ一つしかない絵画作品に仕上げている。

回顧展ではそのほかにも、女性のヌードを描いたものや中国風の風景画など、あまり知られていない作品も展示されている。美術作品を独自の作風で描き変える「美術史上からの引用」シリーズでは、オリジナリティを絶対視する近代芸術に疑問を投げかける挑戦的な姿もうかがえる。この回顧展はリキテンスタインのさまざまな側面を知るよい機会を与えてくれるだろう。

リヒテンスタイン回顧展は2月21日から5月27日まで開催(休館日なし)。

テート・モダン Tate Modern
Bankside London
SE1 9TG
United Kingdom
http://www.tate.org.uk/visit/tate-modern

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