オランダのアムステルダム国立美術館が10年の改修工事を経て、2013年4月13日にグランド・オープンを迎えた。80からなる展示室では、17世紀の黄金時代を含む800年のオランダの美術と歴史を辿れるように、約95万点の所蔵作品の中から厳選した8000点が展示されている。
改修工事はスペインの建築家ユニット、クルス&オルティスにより行われた。彼らは美術館を設計したカイパルスに敬意を払い、「21世紀のカイパルス」を合言葉に、21世紀にふさわしい美術館へと変化させつつ、1885年に開館した当時の姿をよみがえらせた。
1876年、国立美術館建設のための建築設計コンペで、ピエール・カイパルス(1872-1921)が選出された。カイパルスはアムステルダム中央駅(1889年)など100以上の建築を手がけ、19世紀後半のオランダ建築を牽引した人物である。そのカイパルスが設計した美術館には330の展示室が用意され、室内も外壁も豪華な装飾を施されていた。彼の意を受けて建築装飾を担当したのはオーストリアの画家ゲオルグ・シュトゥルム(1855-1923)である。しかし完成当時から、豪華な装飾が作品鑑賞の妨げになるとして問題視され、1903年にはとうとう、展示作品にそぐわないとの理由で一部の壁が塗り替えられてしまった。さらに1920年代からは少しずつ装飾が取り外されたり隠されるなどして、1950年代に行われた改修工事を経た後には、すっかりオリジナルの姿からは遠いものとなってしまった。
今回の改修工事の重要な事業のひとつは、この装飾を再びよみがえらせることにあった。もっとも重点が置かれたのは2階にある「大広間」と「栄光の間」である。「大広間」の床はモザイクで彩られ、大きな窓にはステンドグラスが輝き、壁面には芸術家や学者、歴史上の人物とともに、芸術や科学技術を讃える寓意画が描かれている(写真左上)。大広間に隣接する「栄光の間」に続く扉の上には、《希望、信仰、愛の寓意》が描かれている(写真右下)。「栄光の間」には、17世紀のオランダ黄金時代を代表するフェルメールやフランス・ハルス、ライスダールなどの作品が並べられ、一番奥にはレンブラントの最高傑作《夜警》のために「夜警の間」が設けられている(写真右上)。素晴らしい作品群に目を奪われてしまうが、視線を上に向けると意匠を凝らした建築装飾が目に入る(写真左下)。10ヶ所あるルネット(壁面上部の半円形の部分)には、それぞれ芸術分野を象徴した女性とそれに従事する職人、その分野に結びつきの強いオランダの都市の紋章が配置されている。例えば、陶芸のルネットには、デルフト焼を手にする女性、陶器職人、そしてデルフトを有する南ホラント州の紋章が描かれてる。素晴らしい作品を生み出す職人たちと彼らを育んだオランダが讃えられているのだ。
改修工事に伴い、アジアの作品を紹介するためのアジア・パヴィリオンが増設された。また企画展を行う会場としてフェリップス・ウィングも改築中である(2014年完成予定)。アムステルダム国立美術館は歴史を尊重しながらも、時代の変遷にあわせた美術館へと変化し続けている。