「晩年のターナー」展

fig.1, J.M.W. Turner, Rain, Steam, and Speed – The Great Western Railway, 1844, ©The National Gallery, London

西洋美術史に燦然と輝く風景画の傑作≪雨、蒸気、スピード グレート・ウェスタン鉄道≫(fig.1)は、今日でもなお英国最高の画家と称えられるターナーの作品である。雨のなか、近代化の象徴である蒸気機関車が蒸気をあげて、テムズ川に架かるメイドンヘッド橋を渡っている。光と風の動きによって、疾走する機関車の様子が巧みに表現されている。機関車の前には必死に線路を横切る野ウサギ、左側のテムズ川には一艘の小船が浮かんでいて、どちらも蒸気機関車の近代性とスピードとは対象的である。近代絵画の幕開けを告げるこの作品を描いたのは、ターナーが何歳のときであっただろうか。瑞々しい感性を湛えた青年期だろうか、それとも円熟を迎えた壮年期だろうか。

ターナーがこの作品を描いたのは1844年、69歳になる年だった。弱冠26歳のときに英国美術界の権威であるロイヤル・アカデミーの正会員にもなった早熟の画家とも呼べるが、その後も研鑚を続け、生涯を終える76歳まで新たな表現を探求し続けたゆえに生まれた作品である。

fig.2, J.M.W. Turner, Ancient Rome; Agrippina Landing with the Ashes of Germanicus, exhibited 1839, oil paint on canvas, support: 914 x 1219 mm, frame: 1230 x 1530 x 140 mm, Tate. Accepted by the nation as part of the Turner Bequest 1856

ロンドンのテート・ブリテンでは、ターナーが60歳を迎える1835年から、その生涯を閉じる1851年までの画業に焦点を当てた「晩年のターナー」展が開催されている。世界最大のターナー・コレクションを誇るテート・ブリテンを中心に、世界中の美術館の協力により150点の作品が集められた。

彼は神話や歴史の舞台として描く歴史的風景画からロンドン近郊の親しみやすい風景まで、あらゆる種類の風景画を描いた。またその対象も英国内にとどまらず、ヴェネツィアやローマ古代遺跡の景観など、旅行で訪れたさまざまな場所を描いている(fig.2)。研究対象が幅広いターナーであるが、その画業において一貫しているのは光の表現の追究である。晩年の作品では、光あふれる空間の中にすべてを溶け込ませるように描いている。当時、先鋭的過ぎると批判されたこの光の表現方法は、後年、モネなどの印象派の画家たちに大きな影響を与え、今日でもターナー作品のなかで最も評価の高い時期とされている。

「晩年のターナー」展で見られるターナーには、老いによる制作意欲の衰えや悲観的なようすは微塵も感じられない。自然の劇的な変化や近代化による生活の変貌の様子を光のなかに描き出すべく旺盛に制作を続けた彼の姿が見える。

「晩年のターナー」展は、2015年1月25日まで開催(無休)。

テート・ブリテン Tate Britain
Millbank
London SW1P 4RG
United Kingdom
http://www.tate.org.uk/visit/tate-britain

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