「印象派」の名前が第一回印象派展に出品されたクロード・モネの《印象、日の出》(fig. 1)に由来することはよく知られた話である。この印象派の記念碑的な作品は有名であるがためにこれまで深い研究の対象とならず、いま現在でも多くの謎が残されている。描かれているのは「日の出」か「日没」か。描かれたのはいつなのか。サインには72年とあるが、実際は73年なのではないか等々。制作の過程、1874年の第一回印象派展の様子、また本作品がさまざまなコレクターの手を経て1940年にマルモッタン美術館に収蔵されるに至った経緯など、《印象、日の出》をめぐる多くの謎を解き明かそうとする意欲的な展覧会「《印象、日の出》~クロード・モネにまつわる真実」が、マルモッタン美術館で開催されている。
「ル・アーヴルの窓から描いた作品だった。それは霧の中に太陽があり、その前にはいくつかのマストが立っている。彼らはカタログに載せるために題名を知りたがったが、『ル・アーヴルの眺め』という題をつけることはできなかった。そこで『印象』を使えと言った」
モネが正確に「いつ」「どこで」《印象、日の出》を描いたのかという謎に迫ったのは、テキサス州立大学の天体物理学者ドナルド・オルソン教授である。まず彼はこの作品がフランスの北西部の大西洋に面する港町ル・アーヴルに建つホテルの窓から描かれたとの資料が残っていることから、当時のル・アーヴルの地図と400点以上もの写真とポストカードを参考にしてホテルを特定した。そのホテルとは「グラン・ホテル・ドゥ・ラミラウテ・エ・ドゥ・パリ(Grand Hôtel de l’Amirauté et de Paris)」(fig. 2)である。作品ではクレーンやマストを下に見て描かれていることから、部屋は4階か5階であったと推定した。
部屋の窓から望む方角が東であるので描かれた太陽は日の出だということ、そしてこの位置を太陽が通過するのは11月中旬と1月下旬だということが判明した。そのほか大型船が描かれていることから潮の満ち引きについて調べ、天候や風向きなどから1872年11月13日午前7時35分と1873年1月25日午前8時5分の2日に絞られた。そしてオルソン教授をはじめ本展覧会の学芸員らはモネのサインの横に「72」と書いてあるので、モネが描いたのは1872年11月13日午前7時35分がもっともふさわしいと結論づけている。
会場には《印象、日の出》を含むモネの作品26点とモネに絵画の手ほどきをしたブーダンや、ともに印象派展に出品したルノワールやピサロなどの作品35点、そして歴史的資料61点が展示されている。第一回印象派展から140周年を迎える今年、印象派の歴史に新たな一石を投じる展覧会である。
「《印象、日の出》~クロード・モネにまつわる真実」展は、2015年1月18日まで開催。