20世紀のアメリカ人画家マーク・ロスコの展覧会がデン・ハーグ市立美術館で開かれている。1950年代のクラシック・スタイルの作品だけでなく、いままでほとんど展示されていない初期作品にも一室が与えられている。そこには濁った色彩で描かれた肖像、静物画、街の風景などといった、一般的に知られた作品とは全く違うロスコ作品が並んでいる(fig.1)。
彼が抽象絵画を描くようになったのは1940年代のことである。第一次大戦中、ヨーロッパの芸術家たちがアメリカに亡命し、多様なヨーロッパ芸術が同時にアメリカにもたらされた。そのなかでロスコはシュルレアリスムやアヴァンギャルドに興味を寄せ、象徴的なアプローチを試みるようになった。シュルレアリスムへの興味は哲学―とくにニーチェ―への関心も掻き立てた。1940年頃には、絵画よりも言葉で自らの芸術を人々に伝えようと考え、描くことをやめてしまうこともあった。
しかし数か月後、ロスコは美術の世界に戻ってきた。絵画による自らの芸術表現を再び求めたとき、その作風は一変し、一見しただけでロスコの絵画だと分かる特徴的な画面が現れた(fig.2)。物体は姿を消し、色彩によって幸福や悲哀、恐怖、恍惚といった人間の普遍的な感情を表現することを追求した。ロスコは色を塗り重ねることで奥行のある色彩を作り出した。黒い絵の具の合間から黄色やオレンジなど別の色彩が透けて見える。複数の色彩が塗り重ねることで互いに影響し合い、はじめは黒一色にみえた色面も次第に下に塗られた色彩の影響を受けてさまざまに色を変えていく。不安定で移ろいやすい色彩は鑑賞者の感情をダイレクトに揺さぶってくる。ロスコの画面を表現するときに使われる茫漠たる光といった言葉は、この不安定な色彩によって生み出されるものをさす。
ロスコは自分が制作しているときに感じているように、鑑賞者が絵画と一体化することを望んだ。彼が描いた巨大なカンヴァスの前に立つ者は、カンヴァスから滲み出した色彩―深みのあるバラ色、暖かい黄色、陰鬱な黒、―によって徐々に身体が染められ、次第に自分が絵画とひとつとなっていく感覚を味わうだろう。
「マーク・ロスコ」展は、2015年3月15日まで開催(月曜日休館)。