約2年に及ぶマウリッツハイス美術館の改装で誕生した新館ロイヤル・ダッチ・シェル・ウィングで、初めての本格的な展覧会「フリック・コレクション」展が2月5日からはじまった(開催は5月8日までを予定)。フリック・コレクションは、1935年にアメリカの実業家ヘンリー・クレイ・フリック(1849-1919)が40年以上かけて収集した作品を、彼の死後に美術館として拡張した自宅で一般公開したのが始まりである。13世紀から19世紀まで幅広い時代の作品を有し、絵画、素描、彫刻、家具調度品などジャンルも多岐にわたる。
フリック・コレクションのアイコンである、フランス新古典主義の巨匠ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルの《ドーソンヴィル伯爵夫人》(Fig.1)がこの展覧会に貸し出されている。この作品はアングルが1841年に2度目のイタリア滞在からフランスに帰国し、フランス美術界の要職を歴任した時期に描かれた。豪華な調度品のなかに、水色のドレスに身を包んだ女性が佇む。赤い髪飾りが可愛らしく若々しい雰囲気を醸している。陶器のように滑らかな肌、艶やかなサテン地のドレス、卓越した描写は必見である。
フリック・コレクションとマウリッツハイス美術館の作品を見比べつつ鑑賞できるのは贅沢な愉しみであろう。例えば、フリック・コレクションが有するジョン・コンスタブルの傑作《白い馬》(Fig.2)とマウリッツハイス美術館が所蔵するライスダールの《漂白場越しに見るハーレムの眺め》である。コンスタブルは19世紀のイギリス風景画家を代表し、一方のライスダールは17世紀のオランダを代表する風景画家である。二人は故郷を愛し、絵画に表わしたが、この二枚の絵もそうである。穏やかで繊細な光の描写やのどかで田舎的な雰囲気からは、二人が愛情をもってこの風景を眺めていたことが感じられるようだ。この展覧会に訪れたら、ぜひふたつの愛すべき美術館のコレクションを楽しんでほしい。
フリック・コレクションの作品がヨーロッパに貸し出されることは初めてのことであり、オランダの美術館では所蔵が限られているチマブーエ、ファン・アイク、メムリンク、レイノルズなどが出品される貴重な機会である。マウリッツハイス美術館が所蔵するレンブラントやフェルメール作品も併せて楽しんでほしい。
フリック・コレクション展は5月8日まで。