アムステルダム市立美術館で「マティスのオアシス」展が開催されている。マティス芸術の集大成「切り紙絵」に至る道程が、油彩、素描、版画、ステンドグラスなど100点以上の作品によって示され、同館が所蔵するマティスの巨大な切り紙絵《インコと人魚》(1952-1953)へと集約していく。
美術の歴史において「線」と「色」とは長く対立する要素とされ、それをいかに調和させるかということは画家たちが長い間腐心してきた問題である。その一つの答えとなったのが、マティスが生み出した新しい技法「切り紙絵」である。グワッシュで色を塗った紙からまるで線を引くようにハサミでモティーフを切り出し、それらを配置することによって、マティスは「線」と「色」とが一体になった表現を実現した。「ハサミでデッサンする」という彼の言葉が示すように、 ハサミで線を描くように色の塊を切り出していくことはマティスにとって色をかたどること、線と色とを調和させることだった。
切り紙絵は新しいテクニックであるのに反して、そこで用いられるモティーフは花や植物などの初期の頃からマティスが好んで用いていたものが多い。とくに1930年代にタヒチを旅行した際に目が眩むほど強烈な衝撃を受けた力強く美しい海洋の楽園の光景が切り紙絵のモティーフとして数多く登場する。強い日差しを浴びて刻々と色を変える青い海、青い空を飛び回る鳥、ユニークな形の植物や水中植物が、カラフルな色彩で切り出されている。
写真にある4点の作品(Fig.1)は、アトリエの壁二面にわたって制作された作品であり、右から二番目の横長の作品が《インコと人魚》である。これらの作品が制作されたのは、マティスが腸の疾患により大手術を受けたあとに自宅で療養していた時であった。マティスはハサミで形を切り出すときには紙を机に置かず、左手で紙を持ち上げ、まるでカモメが空を飛ぶように軽やかにハサミを動かした。切り出したモティーフはアシスタントの手に渡り、マティスが指示した場所にハンマーと釘で打ち付けられた。ときに助手は脚立に登ってモティーフを固定した。カラフルな形が壁面を飾り、マティスのアトリエはオアシスへと変化した。
展覧会は美術館の一階と二階の二会場に分かれている。一階には切り紙絵に至る道程が同時代の画家たち、また影響を受けた画家たちの作品と比較しながら丁寧に示され、二階では「切り紙絵」作品と、切り紙絵を原画とする版画『ジャズ』、ステンドグラス、衣装などが展示されている。
「マティスのオアシス」展は、2015年8月16日まで開催。