ロッテルダムでSAMURAI展を見る

オランダ第2の規模を誇り、取引額では世界最大とも言われる港湾を抱えるロッテルダム。ここには、名画のコレクションを誇るボイマンス・ファン・ベーニンヘン美術館と、コレクションを持たずに、良く練られたテーマの展覧会を継続的に行うクンストハル美術館が知られている(最近の大規模な盗難でも知られたが・・・)。また、戦時中の爆撃により破壊された市街地には、キューブハウスをはじめ、その時代の先端を行く建築物が立ち並ぶ「都会」的な都市である。

市街地から港湾の方に少し外れた場所に、ワールド・ミュージアムはある。ロッテルダムに立ち並ぶ近代的な建築物ではなく、伝統的なオランダ風の建物を改装、2009年に現ミュージアムとして再出発した。ワールド・ミュージアムは、アジア、オセアニアのおよそ2000点にも及ぶ宗教に縁のあるオブジェを中心に展示している博物館である。

ここで今、オランダで話題を呼んでいる展覧会が開かれている。タイトルは「サムライ」。日本の武器・武具の展覧会であるが、サムライの戦いに代表される「武士」の側面と、その裏側にある禅的な精神世界、さらにそこから生まれた独特の文化にも踏み込んだ意欲的な展覧会である。鎧、兜、刀剣類、幟や袖印などの武器・武具の他、武将に好まれた文芸の一つ、「能」の能面コレクション、武士の姿を描いた浮世絵の数々、戦いの場面を描いた屏風絵など、300点に及ぶ作品が並び、見るものを圧倒する。特に、武将たちが戦いの作戦会議をしているかのような雰囲気で鎧兜を並べた部屋や、兜だけのコレクション展示の部屋は、展示も見やすく、かつ見ごたえ十分である。

日蘭修交400年が過ぎたオランダには、ライデンのシーボルトコレクションや、民俗学博物館に多くの日本の文物が残されているが、今回の展覧会、鎧・兜の多くは、フィレンツェのStibbert Collection からの出展である。18世紀の終わりに、ベンガル地方の東インド会社総督であったジャイルズ・スティッベールトが富を築いた一家で、ジャイルズの孫フレデリックが、受け継いだ巨万の富をもって蒐集をし、自宅のヴィラを博物館にしたということである。フレデリックの死後、コレクションはフィレンツェに寄贈され、現在は一般公開もされているが、フィレンツェ市内から少し離れた地の利の悪さからか、あまり訪れる人はいないらしい。

日本の甲冑の数々は、外国に放出されてしまったものが多いというが、こうしたコレクターによって、また日本の人たちの目に触れることができるというのは嬉しい。日本に残っている武器武具の多くが、いわゆる殿様の持ち物として代々伝わってきたものである一方、今回の展覧会で見られるような甲冑は、どちらかというと、殿様ではない、上級・下級武士たちの持ち物だったものが多いようだ。江戸時代、平和を享受した代償のように武士たちの生活が苦しくなり、代々伝わった甲冑を生活のために放出した際、家紋や名前を削り取ったということだ。そのために、本来の持ち主がわからないままになっている。いつか、そうした甲冑たちが、日本に里帰りする日がくるかもしれない。

もう一つ、徳川将軍家から、時のオランダ国王ウィレム三世に贈られた刀剣と屏風、さらに鎖国の日本がオランダに対して通商を許可することを記した許可状などは、なかなか目にすることができない展示品で、展覧会の目玉的な存在となっている。

ロッテルダムの「サムライ」展は、来年3月24日まで公開(月曜休館)。

ワールド・ミュージアム Wereldmuseum
Willemskade 22-25
3016 DM Rotterdam
the Netherlands
http://www.wereldmuseum.nl

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